はじめて人工受精する。
前日の晩、ナーバスになり、なんか「シャケの産卵みたいで嫌や」と言った。むかしテレビで見た、鮭の養殖現場で人が鮭から搾り出しているところを思い出してた。
人が体内・体外受精してても、そんなことなんとも思わないのに、自分がそれをする、となると思ってしまった。
夫は「シャケにとっては自然なこと」返された。
鮭は大変なんだ。卵を産み落としたところにオスが精子をまいて受精卵ができる。それまでの道のりで、オスは体がボロボロになってしまう。
人工受精のために、相手の「検体」(と病院では呼ばれている)を家から持っていくんだけど、それはわたし以外の女…つまりアダルトなものを見て準備する。
脳内お花畑なわたしはなんとも味気ないなあと思ってしまう。
ただ、もうあまりのんびりもしていられない年齢なんで、医学の進歩に感謝してやるしかない。
検体の容器は、茶袋に入っているので、ちょっとマフィンっぽい。はじめて夫にわたしたときは焼き菓子だと思ったらしく「わぁ」って喜んでいた。ちがう。
当日、診察室に呼ばれる。
夫の検体が遠心分離で選りすぐりのアスリート精子のみが準備される。
台に乗って、聞き慣れた先生の声がする。「はいいきますよー」「はいりましたー!」「画面を一緒にみましょうか!」
子宮頚がん健診とあまり変わらず、痛くなかった。
黒くてモゾモゾした画面に、わたしの子宮の側面図が写ってる。「奥の方にいれましたからねー!」と先生が言って、奥の方を見るとちょびっとだけ白いモヤモヤが入ってた。
エロ漫画みたいな絵面だったけど、エロ漫画みたいに超大量には入ってない。(やっぱエロマンガはファンタジーなんだ)
「タイミングは1日でも外れると受精しない!でも精液は数滴でも元気なら受精します⭐︎」と、いちばんはじめの説明で、先生がハイテンションに教えてくれたことはこういうことなのか…!
「そのまま足をおろして、15分楽にしててください」と研修医さんに言われた。
すごい暇だった。
スマホをバックから取り出したいけれど、手が届かない。となりの診察室から時々漏れる、わたしのように不妊治療している人の声をラジオがわりに聞いていた。
15分経って、研修医さんがきた。若くもの静かな女性の研修医さん。「タイミングはバッチリとれてます。今夜もしできれば、さらにタイミングとってもいいかもしれません」と言われて「それは、今晩セックスするとさらにチャンスですよって意味ですか?」と質問すると「そうですっ」と笑ってた。
不妊外来独特の言い回しがわからないときがある……。恥ずかしがり屋さん仕様なのかな?
そのあと、閉経後の女性の尿が成分で入っているという注射を看護師さんにしてもらった。「緊張が伝わって来るわ…」と言われた。
注射は大嫌い!
でもこの成分は気になる…、どこで閉経後女性の尿を集めているの?(それとも成分がってだけ…?不思議〜)
閉経後女性のおしっこに感謝だわ。
「生理がきませんように…!」といいながら、注射したところにテープを貼ってくれた。
これで確実に授かるわけじゃなくて、可能性はこれでも25%くらいらしい。
どうか頑張ってくれ!夫の検体とわたしの卵!
鮭みたくボロボロになりたくないし、もう注射したくないから。
(でもすぐには無理なんだろなー!)